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星の瞳


彼女に襲撃を受けるのはこれが初めてではない。
俺が風呂からあがった直後、元々無口な彼女が、やはり黙って俺に向かってきたのも、そのままの勢いで俺を押し倒したのも予測していた範囲内だ。
ただ、後ろに柱があって、その柱の角で頭を強打したのは予想外だったが。

俺は声にならない叫びをあげたが、そんなこと彼女はおかまいなしなわけで。
じっと俺の顔を、息がかかるくらい至近距離で、じっと見ている。

「・・・・・・」

顔をじっと見る気持ちは、まぁ、わからんでもない。
俺の瞳の色は他の人とは異なっている。
昔、名づけ親が言っていた。
俺の瞳には青と緑、海と森、『星』の色がある、と。
そして、そこから俺の名前もつけたのだと。

正直この瞳を疎ましいと思ったこともあった。
この変わった色をした瞳を気味悪がる人も少なくはなかったし、この瞳を狙って近づいてきた人間に恐ろしい目に合わされたこともある。
だけど、その人の話を聞いてから、俺はこの色が少し好きになった。
星の色だと言ってもらえたことが嬉しかったから。

「・・・・・・」

・・・と、そんな回想は此処までにしておき、今は目の前の現実をどうするかだ。
瞳のこともあり覗き込まれることも、顔を見つめられることも少なくはない。
だけど、イコール慣れているというわけではない。
そう、至近距離でじっと見られると・・・さすがに照れてくる。

「あ、あのさ」
「―それは」

彼女は眉間に皺を寄せる。

「それは一体どうした」

そういって俺の左目を指差す。
正確に言えば、左目があった場所を。

俺の左目はない。

本来あるべき場所には酷い傷跡だけがある。
そしてその傷の下にも眼はない。
俺の眼は、昔、戦争にいたとき、相手側の兵士にえぐられた。
それは珍しい色だったから。

―――高く売れるんじゃないか?

激痛で遠のきそうな意識の中、相手はそう言っていたのを聞いた気がする。
実際にそういった珍しい『眼』を扱っている商人もいる。
そいつに売りつけるつもりだったのだろう。
相手はもう一つ、右目もえぐろうとした・・・と、そこまでは覚えている。
後は記憶がない。
気がついたら俺は生きていて、自分の軍にいた。
戦友が「大丈夫か」とか「運がよかったな」とか声をかけてくれた。

生きている。

そう感じだとき、心から涙がこぼれた。

その後俺は軍を離れた。
片目だけでは死角も多いし、人の足をひっぱってしまう。
それに、死にたくないと思ってしまったから。
俺が軍を抜けたいといったとき、上司は責めもしなかったし、そうかとしか言わなかった。

「おい」

彼女が不機嫌そうな顔をして乱暴に俺の髪をひっぱった。
また過去に飛んでしまったみたいだ。

「いたっ!ちょ、あいたたたたたた」
ぐいぐいぐいと容赦なく髪をひっぱる彼女。
「人が質問しているのに、さっさと答えろ」
「わかった!わかったから手を離してくれ!痛い!ハゲる!ハゲるから!!」
ぱっと手を離す。
助かったとばかりにため息をつくと、ずいっと再び顔を超至近距離まで近づけてくる。

「で?」
「んー・・・と、昔、戦争に居たときに相手にやられて負傷したって感じかな」
「そいつは?」
「うん?」
「お前にケガを負わせたそいつはどうした?」
「あー・・・」

あのときは助かった喜びでいっぱいで、そんなこと考えなかった。
だけど、おれが助かったというならば、

「・・・多分、死んでるんじゃないかな」
「そうか」

すると彼女は納得したように頷いた。

「納得してもらえた?」
「まあな」
「・・・その返答だとまだ附に落ちないって感じなんですけど」
「お前は何で戦争なんかにいったんだ?」

次の質問。

「戦うのが嫌いな癖に」
「・・・昔はそうでもなかったんだよ」
自嘲気味に俺は口元に笑みを浮かべた。

「いかれた話だけど、あの頃の俺は人を殺すことを何にも感じないどころか、そうすることで満足感を得てたんだよね。今日はこれだけ殺した。じゃあ明日はこれだけ殺そうみたいに、働くみたいにノルマを自分で勝手にきめてそれを淡々とこなしてた」
「何故?」
「・・・そうすることでしか生きていると思えなかったから」

生と死の交わるあの場所で。
明日は自分が死ぬかもしれない恐怖の上で。
人と命のぶつかり合いをするのが、生を感じる瞬間だった。

「それだけか」

見透かされている。

「そんなくだらない理由でお前が戦争に行くとは思えない」
「あー・・・まぁ、ね」

なんでそんなことわかっちゃうのかなぁ。

「実はね、友人がこの戦争に巻き込まれて死んだ。だから初めはその敵討ちのつもりだったんだ」

それがいつの間にか、人を殺すことに慣れてしまった。
傷口に触れる。

「視力を失った。だけど、あそこで止まることができてよかったと思う」
「そうか」
「うん。もし、あそこで止まれてなかったら、今こうして2人に出会うこともなかったしね」
「・・・・・・」

べしっと頭を殴られた。

「あいた!何するんだよ!!」
「・・・お前よくもそんな恥ずかしい台詞をさらりと吐けるな。驚いて殴ってしまっただろう」
「殴るなよ!相変わらず乱暴だなぁ・・・」
ぶつぶつと文句をいうと、彼女はふいと視線をそらした。


「だが、私もお前と出会えてよかったと思っている」

「え?」


俺が目をぱちぱちさせていると、彼女はすっと立ち上がり、すたすたと風呂の方へ歩いていってしまった。

「・・・あれは照れ隠しだったのかなぁ」

だとすると彼女にもなかなか可愛いところがあるものだ。
くすりと笑っていると、彼女が去っていったのと反対側から友人がやってきた。

「あれ?何笑ってるの?なんかイイコトでもあった」
「や、ちょっとね」
「何々、興味あるなぁー、僕にも教えんさいっ!」

そういうや否や彼もまた容赦なく飛び掛ってきた。

そして、二度目の後頭部強打。

声にならない叫びを再び上げるも、彼もまたおかまいなしという感じで、目をきらきらさせながら、「何?何?」と聞いてくる。
俺は鈍い痛みがある頭をさすりながら、ふっとまたさっきのことを思い出して笑った。
すると彼はさらに興味をかきたてられたらしく、ずいっと俺の顔を覗き込む。

「何があったのさ?」
「ん、いやちょっと、可愛かっただけ」
「誰が?」
「・・・秘密」

なんでかわからないけど、独り占めしたくなったから。
彼には悪いが言わないことにした。
案の定彼はむぅとむくれていたが、俺が笑いながら頭を撫でると彼もにっと笑い返してくれた。



風呂上りに牛乳でも買って待っていたら、彼女は笑ってくれるかな?
 


アス視点。

アスは尻に敷かれているようにみせかけて、意外と対等な立場にいると思う。
むしろ主導権は握っていそうな男。
彼についてはブログでびっちり語ったのでそっちにてどうぞ。

気が向いたらまた書きたいと思います。
彼女との出会いとか書いてみたい。


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