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思うが侭に ただ 綴る

そのとき思った言葉を綴る場所
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空の海で溺れる天使


君の世界に僕はいない
君の世界に僕がいない



5限目の授業をサボって屋上で寝転んで空をみた。
元々授業をうけるような気分ではなかったし、友達もわたしをとめようとしなかった。

目の前に広がるのは見事なまでのスカイブルー。
だけど、わたしの心に広がる空は、どんよりと今にも泣き出しそうな曇り空。
そのうち雨が降り出した。
その雨は心だけじゃなくて、わたしの目からこぼれだし、頬を伝って地面に跡をつけた。

かみさまは卑怯だ。

わたしの大切な人を奪ってしまった。

じわりじわりと彼女に迫り。
ぽたり、と一滴の跡ををつけ。
その跡からじわりじわりと彼女の身体を侵食し。

ついには彼女を連れて行ってしまった。

またひとつ雨が頬を伝い流れていく。
どうして?
ぬぐいきれない疑問が一つ。
どうして?
消えない痛みが一つ。
どうして?

誰も答えてくれないのに。
わたしは誰に聞いているのだろうか。
かみさまだろうか。
だけどかみさまはわたしがどれだけ話しかけたって今まで答えてはくれなかった。

かみさまは卑怯だ。
声は届いているはずなのに。
かみさまは卑怯だ。
助けてくれって願ったのに。
かみさまは卑怯だ。

どうしてあの人をつれていったのですか?

一度降り出した雨は止まることなく、溢れて、わたしの頬をぬらしていった。



どれくらい経ったのだろうか。
いつの間にか眠っていたみたいだ。
頭がぼうっとして、ひどく重たい。
わたしはのろのろと身体を起こす。

そしてふっと横をみると、隣にはよく知った顔が転んでいた。

「・・・なにしてんの?」
「お前こそ、授業さぼってなにしてんの?」
「・・・・・・」
「あのさ、残念な気持ちはわかるけど、仕方がないって」
「仕方がないって・・・!そんな、」
いくらなんでも、冷たすぎる。
そういってやろうと思って、彼の顔をみた途端、わたしは何も言えなくなった。

彼の表情はどこまでも静かだった。

「人には寿命ってものがあるんだから。それに、あのまま生きていることが本当に幸せなのか、おれにはわかんなかったから」

彼は、わたし以上に彼女の傍で、ずっと彼女をみてきたんだ。
わたしの前での彼女は明るくて、いつも元気そうだった。
だけど、本当は相当つらかったんだと、わたしは後で聞いた。

彼女は彼の、彼女と同じ血を分けた彼の、前では弱音をこぼしていた。
本当は死ぬほど怖くて、痛くて、つらくて、だけどそんな姿他の人にはみせたくないって。
だから、ごめんね。
そう言って、いつも彼女は彼の前で弱音を吐いていた。

わたしは、偶然その姿をみてしまった。
彼はそんな彼女の話を静かに、ただ静かに聞いていた。
静かに彼女の弱音を受け止めていた。

段々と彼女の病は悪くなり、次第に喋ることもできなくなった。
薬が増え、とても苦しく痛い思いをして。
それでも彼女はわたしがいくと笑ってくれた。
何も言わなくても、彼女が笑って、まだ生きていてくれるということがわたしにとっては嬉しかった。

彼は変わらず静かに彼女の傍にいて、静かに彼女を見守っていた。

そして、先日彼女は苦しみの末に、静かに短い命を終えた。

「おれも、恨んだよ」
「・・・?」
「お前みたいにかみさまを。だけど、結局それも気休めなんだよな。お前のせいだって言って、誰かのせいにして、どうしようにもならなかった現実から逃げてるんだよ」
彼はわたしの方をみた。
「そうやって、逃げるのは簡単だけど。その現実をやっぱりおれたちは受け止めなくちゃいけないんだよ」
「わかってる・・・だけど」
だけど、その現実を受け入れるのはあまりにも苦しい。
だって、受け入れてしまえば、彼女がもう此処にいないことを肯定してしまうから。
「・・・受け止めるのは確かに怖い。おれだって嫌だよ。だってずっと一緒だったんだ、生まれてからずっと。家族とか姉弟とか以上に、自分の片割れだったんだ。だけど、もういないんだよ」

「それが現実で、おれたちはまだ生きていて、それをちゃんと受け止めてなくちゃいけないんだ」

彼の瞳の奥には、深い悲しみと、決意が宿っていた。

それから彼は起き上がり、私の頭をがしがしと乱暴に撫でた。

「あいつのことで泣いてくれて、ありがとな。だけど、いつまでも泣いてたら、あいつが心配するから」
ほら、あいつ心配性だろ?と彼は少し寂しそうに笑う。

「・・・あのさ」
「ん?」
「アンタは、泣かないの?」
「泣いた。誰もみてない場所で大泣きした。もう十分だろってくらい。そんでも泣き足りなくて、昨日もまた泣いた」
「・・・・・・」
「そしたら、変な話だけど、昨日あいつが夢に出てきて言うんだよ。もう十分だって。それ以上泣かれたら、私が溺れちゃうって。そういえばあいつカナヅチだったから」
「・・・・・・」
「だからおれはもう泣かないことにした」
「・・・強いなぁ」
「強いとかじゃねぇって、あいつが溺れたら困るからだよ」

視線を空へと向ける。

「だって、あそこまでおれは助けにいけないから」

わたしも彼と同じように空をみる。
空は変わらない青い色が広がっている。
透き通るようなスカイブルー。

わたしは静かに目をとじた。
残った雨粒の最後の一滴が、ぽたりとこぼれる。
そして、わたしの空にも少しずつ晴れ間が見え始めた。



あなたを失った悲しみが癒えたわけじゃない。
だけど、もう泣くのはやめようと思った。

空の海で、彼女が溺れたら困るから。

即席創作。

別に誰ってわけではありませんが、ひよりと火月より淡々としたものが書きたかったので。
今回視点を担当していただいた彼女には名前がありませんが、彼には一応「ヒロト」という名前があります。
舞台的には紫苑高校だけど、ハルシオンの主メンでも、出てくる誰かってわけでもありません。

空の海で溺れるって、はじめまったく考えていませんでした。
書いていったら、そうなってて。
終わりとかあんまり決めないで文章を書くので途中がめちゃくちゃ苦しいときが多いんですが、この書き方しかできないんだよなぁ。
此処の文章はすべて思うが侭に、ただ、綴っています。

(2008.2.25)

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