忍者ブログ

思うが侭に ただ 綴る

そのとき思った言葉を綴る場所
MENU

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

問題ありのオールグリーン


システム正常
思考はクリア
問題なしのオールグリーン



屋上がすきだ。
屋根がなく、空が綺麗にみえるから。
窓に切り取られた四角い空も嫌いではないけれど、やはり、区切りのない空が好きだ。
手を伸ばせば届きそうなのに、けして空には届きはしない。
それはまるで、この世とあの世みたいに。

そんな空の下、わたしは歌を歌う。
けして上手ではないけれど、歌を歌うのは好きだ。
特に誰も居ない屋上で、1人ぼっちのステージで歌うのが好きだ。

わたしはなるべくちいさな声で歌を歌う。
1人なんだから、大声で歌えばいいのに、と、昔たった1人だけいた観客である彼女は言った。
わたしは恥ずかしかったのだ。
誰かに歌を聞かれるのが。
だけど、彼女だけは特別で、わたしのたった1人の観客だった。
わたしのへたくそな歌を最後まで笑って聞いてくれる彼女が好きだった。

そんな彼女は、もういない。
まだ何年もあったであろう人生にさよならしてしまった。
それは自分から選んだのではなく、空にいる誰かさんが勝手に彼女を連れて行ってしまった。
わたしは悲しかった。
彼女がいなくなった日から、毎日このステージに来て、ひとりで涙を流していた。
だけど、それはこないだからやめることにした。
彼女の半身でもある彼に言われたのだ、『彼女が涙で溺れてしまう』と。
彼女はカナヅチだったから、泳げない。
わたしも彼も、彼女のところまで助けにいってあげられない。
だから、もう泣くのはやめることにした。

わたしは1人ちいさな声で歌を歌う。
と、珍しく誰かが屋上にやってくる気配がした。
あわてて近くの壁に隠れ、様子を伺う。
実は今は授業中である。
不謹慎な・・・と自分のことを棚にあげて、誰が来たのかを確認する。

来たのは二人。
1人は知らない女の子。
目が大きくて、とても可愛らしい。
笑えばもっと可愛いのだろうが、今彼女に浮かんでいる表情は緊張で強張っているように見えた。
もう1人はよく知っている。
彼女の半身でもある彼だ。
彼はいつものように静かな表情を浮かべていた。

2人は会話しているようだが、小声で話しているのでよく聞こえない。
もう少し近づいてみようかと思考している最中、女の子が彼の頬を思いっきりぶって屋上から出て行ってしまった。
何があったのかは分からないが、どうやら彼女を怒らせてしまったらしい。

「おい」
彼がこっちをみた。
わたしは後ろに視線を向けるが、当然何もないし誰もいない。
「お前だよ。てかお前しかいないだろうが」
「いや、誰か他に居たような気がしてさ」
「出て行ったの見てただろうが」
「・・・お気づきでしたか」
「最初からな」
分かりやすいんだよ、と彼は言いながら彼はその場に座る。
わたしも出てきて、彼の横に座った。
近くで彼の顔をみると、ぶたれた頬が少しはれて赤くなっていた。

「ぶたれてたね」
「ああ、思いっきりやられた」
「なんて言われたの?」
「好きだとか付き合ってくれだとか」
「わーお、告白じゃん」
「だから、『大した用でもないくせに呼び出すな。大体お前のこと全然知らないし、興味もないから』って言ったらぶたれた」
「そりゃあぶちたくもなるよ」
お気の毒に、と心の中で彼女に呟く。
彼はそういう人なのだ、はっきりきっぱりばっさりと物を言う。
わたしはもう慣れているから平気だけど、彼女はそんなこと言われるとは思っていなかったのだろう。
「おれは思ったままのことを言っただけなんだけど」
「ヒロはストレートすぎるんだよ。女の子にはもっとやさしくしてあげなきゃ」
「それ、アイツにもよく言われた。けど、やさしくすればあいつらつけあがるじゃん、余計うっとおしくなるし」
「うっわー・・・相変わらず言うねぇ」
「おれは別に彼女とかほしくないし。少なくとも今は考えられない」
彼は少しだけ寂しそうな表情をした。
「・・・まぁ、そうかもね」
「だろ?なのにこの時期に告ってくるなんて、あいつらどういう神経してるんだろうな」
「うーん、そこまで言わなくても・・・ってかあいつらってことは複数に告白されたの?」
「この2、3日の間に8人くらいされた」
「もってもてじゃん」
すると彼は、うとおしいだけだって、と言って顔をしかめた。

彼の顔は悪くはない、というかむしろ整っていて綺麗な顔をしている。
まつげなんか女のわたしがほしいくらいに長くて綺麗だ。
別にもてても不思議ではないのだ。
ただ、今まで告白されることが少なかったのは、彼が髪を伸ばしたらこうなるであろうというくらいそっくりな顔をした彼女がいつも彼の傍にいて、なんとなく声をかけずらかったのだろう。
―――ちなみにそこにはわたしも居たのだが、わたしは気にもされていないようだ。
だから彼女がいなくなってしまった今、彼女の穴を埋めるということも含めて彼の傍には可愛い女の子が名乗りをあげてやってくるのだ。
誰かの代わりになんてなりはしないのに。

「ヒロは、女の子に興味がないの?」
「ないってわけではないけど、少なくとも今は必要ない」
「そっか」
「逆に聞くけど、お前はそういうのないのかよ」
「んー、ないわけでは、ないけどさぁ」
数年来美形2人の傍にいたせいで目が肥えちゃって、なんて言えるわけがない。
興味がないわけではないんだけど。
「まぁ、今は彼氏とかを作るより、ヒロと居るほうが楽しいからね」
「・・・それって遠まわしな告白かなんかか」
「ちっ違うよ!そんなわけないじゃん」
大げさに手を振る。
「ふーん」
彼はいたって興味なさそうに見えた。
「ま、お前まで誰かにとられていなくなったら寂しいからいいけどな」
「へっ?」
普段の彼からは想像もつかないような言葉に一瞬時がとまったかのように感じた。
「・・・それは、遠まわしな告白かなんかですか?」
「違う」
わたしのときめきはすぐに終わった。
返せ、わたしのときめき乙女心。
そんなわたしの心境を知ってか知らずか、彼は言葉を続ける。
「あいつは、・・・もう居ないし。あとずっと傍にいて、安心できるのってお前くらいなんだよな」
彼がわたしの方をみる。
「だから、お前までどっかにいかれると、すっげー困るんだよ」
その顔は本当に困っているようで、子どもみたいで、わたしはつい笑ってしまった。

「笑うなよ、人が真剣に話してんのに」
「だって、あはは、ごめん、ごめん」
わたしは笑ったまま彼に謝罪する。
彼に告白した女の子たちが聞いたら、わたし恨まれそうだな。
彼の台詞は、先ほどの女子のような告白くさかった。
だけど、彼が違うと否定しているのだから、これは真剣にそう思っているけれど、告白ではないのだろう。

それでも、すごく嬉しかったわけで。

「ありがと、ヒロ」
そういうと彼は、おう、と短く答えて少しだけ笑った。






「まぁ、すべてに関して並みの並のお前に早々彼氏ができるとも思ってないけどな」
「ひどっ!うー、それについては真剣に悩んでいたりするのに」
わたしは頭を抱え、うーんとうなっていたが、ふとある考えが思い浮かんだ。
「ねぇ、ヒロ。もしわたしが嫁に行きそびれたら、嫁にもらってくれる?」
彼は露骨に嫌そうな顔をする。
「なーんてね、冗談だよ、じょうだ」
「いいよ」
「ええ?!」
予想外の答えにわたしは心底びっくりした、それはもう目が飛び出そうになるくらいに。
さっき露骨に嫌そうな顔していたくせに。
「ま、まぁでもヒロはもてるんだから、わたしが嫁にいきそびれる頃には結婚してそうだよね」
「どうせする気もないし、待っててやるよ」
「えええ?!」
「お前本当に行きそびれそうだし」
「ひどっ!・・・まぁ、ヒロが嫁にもらってくれるっていうのは、ちょっとだけ、嬉しいけどさぁ」
彼は多分かっこいい大人になりそうだし。
・・・まて、だとしたらどう考えてもわたしが釣合わない。
「やっぱりいいよ!わたしとヒロじゃ全っ然釣合わないから」
すると彼は眉を寄せた。
「釣合う釣合わないとかって、互いがよければ、別に関係ないだろ」
「それはそうだけどさぁ・・・」
「お前には興味があるから、おれはいいけど」
「興味あるんだ?!」
これもまた、意外な答え。
「だってお前なんか面白いし、見てて飽きないし」
「それは・・・なんか・・・」
犬か猫みたいに思われてないか、わたし。
つーかわたし先ほどさらりと振られてるんですけど。
冗談交じりだけどさ、ちょっとは、ほんのちょっとは本気だったわけで。
「複雑だ・・・」
わたしがそう呟くと彼は一瞬不思議そうな表情を浮かべ、その後また少しだけ笑った。



システム異常
思考にはノイズ
問題ありのオールグリーン

「空の海で溺れた天使」の続き。

この話は一応これでおしまい。
すいません、この話は冒頭が書きたかっただけです。

ひろと好きだなぁ。
結局「わたし」は突っ込みになってしまった。
最後の方のひろとが「わたし」を必要としている台詞が言わせたかった。
何を考えてるのか分からないし、冷たそうな人がたまに弱音(本音)とかをこぼすのがすきだ。
ひろとは結構オープンですが。
そういや前の話で抱きしめるシーンをいれようかと思ったんですが、なんか違うな・・・と思ってやめました。
抱きしめるってすきなんだけど、この2人は頭をなでるくらいのコミニュケーションでいいよ。

(2008.2.26)



2月28日追記。

「わたし」の名前が決まりました、「幸」と書いて「ユキ」です。
ちなみに彼女の名前は「ひろか」です。
あと「ひろと」もひらがなに表記を変更、はつきさんカタカナがあんまり愛せない。
普段ひろとは「ヒロ」、ひろかは「ロカ」と呼ばれています。
双子の姉弟でとてもよく似ています。

PR

× CLOSE

アクセス解析

× CLOSE

Copyright © 思うが侭に ただ 綴る : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]