(これは「白い世界」の後、「D2」の前くらいの物語です)
なんでか今日は寒気がする。
昨日白透日に(無理やり)雪遊びに付き合わされたせいだろうか。
というか、心当たりがそれしかない。
とりあえずと思い熱を測ってみたら案の定。
おとなしく寝るか、と思ってベットに横になっていると、痛む頭にはひどく響く高い声で白い少年、白透日が入ってきた。
「グッモーニンっ、スリル!今日も素晴らしくいい天気だよっ・・・てあれ?」
「・・・白透日」
人の部屋にノックもせずに入り、ずかずかと近づいてくる白透日。
「まだ、寝てるの?もー、おねぼうさんなんだからー、スリル、はっ!」
そういうと一気に布団を取り上げた。
「なにすんだっ!」
さすがに起き上がり反論する。
「だって、スリルが寝てるんじゃつまらないじゃん、僕が」
「お前の事情なんて知るかっ・・・っつ」
叫んだせいで頭痛が先ほどよりもひどくなり、思わず頭を抑える。
「うん?どうしたのスリル?」
「・・・いいから、布団を・・・かえせ」
そういうが早いか、視界がぐにゃりと歪んで、俺は意識を失った。
「あ、気がついた?」
次に目を開けると白透日が心配そうに覗き込んでいた。
「・・・ずっと居たのか?」
うん、と頷く白透日。
「調子、悪かったんだね。ごめん」
素直に謝る。
そう、コイツに素直に謝られると。
「・・・なんか」
「ん?なんか欲しいものでもあるの?」
「気持ち悪い」
「ひどいっ!バカ、スリルのバカー!!」
「いたっ!ヤメロ、叩くな・・・っ」
怒鳴るのはまずい、頭痛が悪化する一方だ。
今日は、勘弁してやるか・・・。
心の中でそう思いながらスリルは目を閉じる。
「あ、そういや、さっきスリルが寝ている間にドクターを呼んできたんだ」
「へぇ・・・」
お前にしては珍しい気遣いだな、という言葉は飲み込んでおく。
確かに先ほどよりは少し楽になっている。
「魔界から」
「へぇ・・・って、なんだって?!」
「いやあ、探すの大変だったんだよー、あの羽耳のドクター。『君らの魔王がぶったおれた』っていったらすっとんで来てくれたけど」
「ブラックピースか・・・」
うん、と白透日が頷く。
「風邪だって」
「そうか」
「あと糖分のとりすぎを控えろって」
「・・・・・・」
「僕も多少控えたほうがいいとは思うよ、マジで」
「・・・無理」
「いや、控えろよ。糖尿の魔王だなんてかっこ悪くて勇者もげんだりだぞ」
「そもそも勇者なんていないだろ」
「まぁ、そうだけど」
そういうと白透日は俺のベットにもたれかかる。
「魔王はいるのに、勇者は居ない。勇者がいても、倒すべき魔王は平和主義で、世界をのっとるやる気ゼロ」
世界は平和だねーと白透日が笑う。
「しかも、魔王は風邪っぴき」
「ほっとけ」
「うん、本当に世界は平和だ」
「・・・・・・」
「平和すぎて、寒気がするよ」
「・・・平和が一番いいんじゃないのか?」
「まぁ、そうなんだけどさ」
くるりと背を向ける白透日。
「平和だってことが、一番いいとは限らないよ」
「・・・・・・」
「あいつは、今も、まだ生きてるんだから」
「・・・白透日」
「結局僕は、この世界のために、何一つしてあげられなかったんだから」
背負うべき背中は小さいのに、背負わされたものはバカみたいに大きくて。
たくさんのものを失って、得られたものも失って。
ぼろぼろになって、傷だらけになって。
「だけどね」
顔を上げる。
まだ白透日は背を向けていて俺からは表情がまったく読めない。
「僕はまだ、あきらめてないよ」
くるりと振り返ってくったくのない笑顔で笑う。
「だって僕があきらめちゃ、ほんとの『おしまい』だもん」
こいつには敵わない、とずっと昔から思っていた。
何をやらせてもそつなくこなせて、苦手なものがほとんどなて。
だけど、そんなこと以上に、心の強さでまったくかなわない。
雪みたいに儚い姿をしているのに、ずっとずっと溶けずに、まっすぐに生きている。
「だけど、やっぱり、1人で立ち向かうには限界があるわけだよ」
だから、と俺に顔を近づける。
「そんな風邪さっさと治して、協力してよ、相棒」
驚いたが、にっと笑う白透日につられて俺も笑い返した。
「此処まできたら、最後まで付き合ってやるよ」
一瞬、白透日は複雑な顔をしたが、すぐに笑い、
「ありがと」
と言った。
「んもースリル大好きっ!僕スリルが女だったら結婚してあげてもいいよ」
「なっ、おい、ちょっと病人に抱きつくな、バカ!てか俺お前の嫁になんかなりたくない」
「ヒデェ!梅雨はちょう幸せそうだよ!」
「お前も言ってるけど、お前には梅雨がいるだろうが。男の俺に妙なこと言ってないでもっと自分の嫁にその気持ちをそそいでやれよ」
ええー、と白透日があきらかに不満そうな顔をする。
「あれ以上に愛情を注いだら、梅雨の体がもたないと思うよ」
「お前はいったい何をしてるんだ」
「そんなの、恥ずかしくていえないよ。スリルのエッチー」
ぽっと照れるしぐさをする白透日。
なんか、良くなりつつあった頭痛が酷くなって帰ってきた気がする。
今更だけど、白透日といるとすごく、すっごく疲れる。
「ん、もうこんな時間だ。帰ってご飯作んないと。いい、スリルは静かにおとなしくして寝てるんだよ」
「ああ、わかった」
「晩御飯は適当になんか作って持ってきてやるから。僕の愛を込めた料理を」
「愛はいらん」
「愛が重要なんだよ」
きっぱりと言い切る白透日。
頭痛いので「わかったわかった」と適当に言う。
「んじゃー明日もくるから!」
「明日はなるべく静かに来てくれるか」
んんーと、うなったあと、白透日は満面の笑みを浮かべて、
「無理!」
「無理かよ!!」
そういい残すと鼻歌交じりに部屋から出て行った。
頭痛い・・・本当に。
先ほどの「最後まで付き合ってやる」という話を撤回しようかと思いつつ、スリルはやっと静かになった部屋で眠りについた。
スリル視点。
たまには、彼らも書きたくなりまして。
いい感じにこのブログがカオスってきました。
白透日はこんな人です、ものすごく書きやすいのは自分とテンションが似ているからでしょうか。
この地点で白透日はすでに結婚しています。
子どもはまだ生まれてないんじゃないかな、多分。
生まれてなかったとしたら、梅雨さんはただいま妊娠中だと思う。
スリルはひとりで暮らしていますが、しょっちゅう白透日が遊びにくるのでひとりで暮らしているという感覚はあまりなさそうです。