忍者ブログ

思うが侭に ただ 綴る

そのとき思った言葉を綴る場所
MENU

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

偏愛家の食卓


「リルドさんが死んだら、食っていいですか?」
目の前にいるソイツは、真面目な顔をしてそう言った。



今日は【仕事】もなく、久しぶりの休日。
読書でもするかと思い、朝から図書館へ本を借りに出かけた。
そのまま図書館で読書をしてもかまわないのだが、周りがあまりいい顔をしないので、極力借りてきて自分の部屋で読書をすることにしている。
まぁ、借りるだけでも十分いい顔をされないのだが。
部屋に戻る途中、先ほどの受付の表情を思い出しながら自分の前髪に触れる。

仕方、ないか。

自分の外見は天界の中では相当浮いている。
一般的な天使の髪の色と言えば、金か銀、瞳は青か緑である。

青緑の髪に灰色の瞳。

どう考えても浮いている。
特に灰色の瞳というのは死神にしか出ない色であり、親が天使ではない、純血ではないことを示している。
天界は皆平等に扱ってくれる、というような話があるが、そんなことはけしてない。
むしろ差別がひどいほうではないだろうかとさえ思う。
自分が今の立場を保っていられるのはたまたま【力】が他の天使たちより強かったからだ。
そうでなければ今頃は、


そこまで考えて無理やり思考を断ち切った。


――――嫌なことを思い出しそうになった。


思い出すだけで気持ちが悪い。
嫌な汗が流れる。

大丈夫。

深く息を吸う。

大丈夫。

ゆっくりと息を吐く。

大丈夫、少なくとも、今は。

「・・・よし」
落ち着いた。
いつもは買い物なども外に出たついでにすませるが、今日は早めに帰ろうと思う。
いろいろと、嫌な記憶を思い出さないうちに。
そう思いながら、部屋への足取りを速めた。




「あ、お帰りなさーい」
部屋に入ると、ごく当たり前のようにラズイルがいた。
しかもこれまた当たり前のように椅子に腰をかけている。
「・・・なんでお前が俺の部屋にいるんだ」
鍵は、確かにかけたはずだ、確認もした。
・・・ピッキングでもしたのか。
コイツなら無駄に器用だし、やりかねない。
「いやー、リルドさんに会いたくって」
そんなこちらの思考はまったく分かっていないでろう、ラズイルはてれてれと頭をかきながらそう答えた。

「急に休みだーって言われても、オレ、やることないですし」
「本でも読んで勉強したらどうだ」
「オレ字読めませんから」
「勉強しろ」
「リルドさんが手取り足取り教えてくれるんなら、いくらでも勉強します」
「・・・・・・」
無視することにした。
机をはさんでラズイルの向かいにある椅子に腰を下ろし、本を広げる。

「無視しないでくださいよ」
「・・・・・・」
「リルドさーん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「キスしていいですか?」
「駄目だ」
即答すると、チッという舌打ちが聞こえた気がした。

コイツは何気ない会話の中にこういう質問を織り交ぜてくるのだ。
自分から手を出してくることはないし、無理やりしようという気は(今の所)ないようだが、こういう質問でぼんやりして曖昧な答えを返そうものなら即実行に移す。
現に「好きにすれば」だとか答えて実際にされたことがある。
しかもこれは言い方がまずかった為、ラズイルを殴った後、自分も少々の罪悪感を感じることになった。

「リルドさんのケチー」
「・・・・・・」
ラズイルを無視し、読書の世界につかろうとすると、それを感じ取ったのかラズイルが身を乗り出してきた。
「キスするとか言いませんから、かまってくださいよ」
「お前がもう少し静かにしてたら、考えてやってもいい」
「!」
イスに戻り、大人しく静かにするラズイル。
こういうところは単純というか、まぁ、可愛いと思う。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

しばらくの間無言が続いた。
これだけ普段騒がしいヤツが静かだと、逆に何か、落ち着かない。
ちらりと本から目を外し、ラズイルの様子を伺うと、彼は思った以上に真面目な顔をしてこちらを見ていた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・ラズ」
「なんですか?」
はぁ、とため息をついて、持っていた本を閉じ、ラズイルに視線を向ける。

「何か言いたいことがあるんだったら、言え」
「へ?でもリルドさんが静かにしてろっていったじゃないですか」
「まぁ、そうなんだけどな・・・」
言葉に詰まっているとラズイルは不思議そうな顔をしていたが、すぐに表情を笑顔に変えた。
「じゃあ、喋ってもいいんですよね?」
「んー、まぁ、よし」
そういうと、わーい、と子どものように大げさに喜んだ後、ふっと真面目な顔になって、


「リルドさんが死んだら、食っていいですか?」


と、言った。

はじめはよく意味が分からなかった。
死体とヤる趣味でもあるのかと本気で思った。
その思考を読み取ったのか、
「ちなみに食うって言うのはそのまま、食事、食べるの意味でいいですよ」
そうすぐに付け加えた。

どっちにしろ、引いた。

「・・・お前死体を食う趣味があったのか」
「や、ないです。大体死体なんて、あんなもん食えたもんじゃないですよ」
ぱたぱたと目の前で手を振るラズイル。
「じゃあ、なんでまたんなこと言い出したんだよ」

「だってリルドさんの方が先に死ぬでしょう」

驚いた表情でラズイルを見つめる。
ラズイルの表情は至って真面目なもので。

「だって、オレの寿命とリルドさんの寿命は、全然といっていいくらい違うじゃないですか。オレが1歳年をとるごとにリルドさんは10歳の年をとっていく。病気だとか、殺されるだとか、オレにだってそんなことは分かりませんよ。だけど、このまま順調にいけば、確実にリルドさんはオレより先に死ぬ」

「・・・・・・」

「オレはリルドさんにおいていかれるわけです」

「・・・そういうわけじゃ」

「ないってことは分かってるんですけどね。リルドさんのせいじゃないし。・・・だけど、事実オレはおいていかれるんです」

「・・・・・・」

返す言葉が見つからなかった。
ラズイルがいうように自分の方が早く死ぬんだろう。
それは覆りようのない事実として目の前にずっとある。
こうやって一緒の時間を過ごしていても、確実に自分の時計はラズイルより早く進んでいる。

仕方がないといえば仕方がないことなのだ。
別の種族と交わるのは、本当は許されないこと。
だから、その分、その子どもは寿命が短い。
これが彼らに科せられた罪であり、罰。

「だから、食べるんです」

ラズイルはまっすぐにこちらを見て言う。
その目は何処までも真剣で、純粋だった。

「オレはリルドさんのことが、大好きだから」
「・・・・・・」
「天使なんて食べたことないですけど、多分人間と一緒のようなもんでしょうね。吐くかもしれませんが、それでも骨の髄まで、骨すら残さず、綺麗に食べきります」
「・・・そうか」

はい、と言ってラズイルは笑顔で頷いた。

なんていったらいいのかわからなかった。
自分が死んだらの話をされるとは思ってもみなかったし、ましてや食われるなんて思ってみなかった。
それを嫌だとか気持ち悪いと思う反面、異端の自分を、そこまで好きになってくれるのが嬉しいと思うのが、少し悔しい。

それに死んだ後なのだ。
自分が死んだ後、どうなろうともう関係ない。
自分の死体をどうして欲しいなんて希望はないし、だったら、ラズイルに食われてもいいかもしれない。

自分はラズイルを残して逝くのだから。
だったら、せめて、最後の望みくらいきいてやっても、いいか。

「好きにすれば」

そう答えると彼は嬉しそうに、だけど、少しだけ複雑な表情を織り交ぜて、笑った。



「まぁ、死んだ後の話をしましたが、今リルドさんは生きているわけですし。それに、まだ死んでもらっちゃ困ります」
「当たり前だ、まだ死ねるかよ。せめてお前が社会的に立派に生きられるようになってから死んでやる」
「マジですか?!」
わーいとこれまた嬉しそうに喜ぶラズイル。
「なんでそこで喜ぶんだよ」
「やー、だって、立派に生きられるようにってことはリルドさんは一生オレの傍にいてくれるってことじゃないですか」
「・・・まて、お前、俺が生きている間中立派に生きていけるようになる気はないのかよ?!」
「ありません!」
満面の笑みで答えるラズイルに、俺の中の何かが切れた。

「こんの、馬鹿やろう!!」

持っていた本の角をヤツの脳天目掛けて思いっきり振り下ろした。






その後その本を返しに行った際、角が微妙につぶれているのをみつけた受付にぐちぐちと文句を言われ、加えて図書館で本を借りることを半月禁じられるはめになった。
「お前のせいだ」とラズイルに言うと、彼は申し訳なさそうな顔をしてしゅんとしてしまった。
・・・そうしゅんとされると、やったのは俺なわけだし、なんだか悪い気もしてくるわけで。

「・・・そうしょげるなよ。まぁ、あの、俺も、悪かった」
「・・・リルドさん」
「なんだ?」
「ちゅーしていいですか」
「やっぱり少しは反省しろ!」

今度は平手で思いっきり頭をぶん殴ってやった。


リルド視点。

リルドがラズイルより先に死んでしまうという話はずっと書きたかったので一つの形になって満足です。
自分よりずっと先に、記憶が曖昧になってしまうほど先に、相手が死んでしまうのってどういう気分なんだろうか。
リルドが死んだ後、きっと恨むし、泣くし、周りにあたるだろうけど、ラズイルは自分の人生を終わらせないと思う。
ぐっと大人になって、悲しい笑顔をしながらも、笑って生きていくんだろう。

ちなみにこれは「愛してるという言葉を百万回言って」というシリーズで、あと数話書いたらジャンルに追加しようと思います。
ちなみにどの話もなんともいえないのが特徴です。

PR

× CLOSE

アクセス解析

× CLOSE

Copyright © 思うが侭に ただ 綴る : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]