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思うが侭に ただ 綴る

そのとき思った言葉を綴る場所
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あなたに飴を わたしにキスを


口が寂しいなんて、理由になるか



ヒロはよく飴を食べている。
前に何気なく理由を聞いたら「口が寂しい」らしい。
彼女もよく飴を食べていて、そんなところまで似てるのかと思った記憶は新しい。

そして、わたしはそんな「口が寂しい」という理由でヒロと彼女にキスされたことがある。

深い意味はなく、本当にそんな理由でわたしのファーストキスは奪われたのだ。
多少救いがあると言っていいのかわからないが、されたのはヒロで彼女の順番である。
この事実を知ったら女子はおろか、男子までもわたしをみる目が変わるのは間違いない。
わたしの世界は一変するであろう。
それだけは避けたい。
わたしは平穏に、平和に、残った学園生活をエンジョイしたい。
と、いうわけでこの事実はわたしと彼、わたしと彼女しか知らない。



ある日、いつものように屋上へ行くと、ヒロが座って、タバコをふかしていた。
吐き出した煙が綺麗な青空へと溶けていく。
「・・・・・・」
わたしは無言で彼の前まで歩いていき、彼からタバコを奪い取って、消火する。
彼は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに表情を戻した。
「タバコ嫌いだっけ?」
「うん」
そうか、と言いながらも箱から一本取り出そうのを、わたしが箱ごと奪った。
ぐしゃりと箱をつぶす。
「・・・・・・」
「学生がタバコなんか吸うな」
「もっともだけど、人のものを勝手に奪った上に、つぶすなよ」
わたしは、ぐしゃぐしゃにしたタバコをポケットにいれて、彼の隣に座る。
やれやれといった具合に彼はため息をついた。

「今日はそれしか持ってないのに」
「飴とか、ロカにもらえばいいじゃん」
「アイツも今日は自分の分しか持ってない」
「じゃあ買いに行けば」
「面倒くさい」
「じゃあ我慢しなさい」
彼は困ったような、不満なような表情を浮かべた。
「いつからタバコ吸ってるの?」
「今日から」
「・・・様になってたんですけど」
「へぇ」
彼は大して興味がないといった具合に答える。
少しだけ、イライラしているしているのが分かった。
何故だかわからないけれど、彼も彼女も一定の時間おきに口に何かを入れないと不満そうな顔をする。
飴なら一つ、ガムなら一枚。
それで、しばらくは持つらしい。

「・・・なんかいらいらしてきた」
「でもタバコはやめろ」
「なんで命令口調なわけ」
「本気でやめてほしいから」
タバコなんてロクなものじゃない。
臭いし、煙たいし、押し付けられれば、痛くて熱い。
無意識的に、ぎゅっと膝を抱えていた。

しばらくの間、2人だまって空を見上げていた。
真昼の青い空はどこまでも澄んでいる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・お前飴とか持ってない?」
「持ってたらあげてる」
「ガムとか」
「持ってないって」
「するめとか、茎ワカメとか」
「ないない」
「あー・・・」
「・・・・・・」
「・・・口が寂しい」
「我慢、我慢」
一際深いため息をついて、彼は床に寝転がって、こちらに背を向けてしまった。

タバコはやめてほしいが、少し彼には悪いことをしたかもしれない。
そう思っていると、突然彼がむっくり起き上がりこちらをみた。
「おれが口寂しい原因を作ったのはお前だよな」
「まぁ、そう言われれば、そうだけど」
じりじりと距離が近づいてくる。
「と、いうことはだな、お前にもこの口寂しい状況をなんとかする責任がある」
「た、確かにそうかもしれないけど・・」
近い、明らかに顔が近い。
「パシリに行ってこいって話?」
「いや」
彼は即座に否定する。

「キスさせろ」
「へ?」

次の瞬間にはがっちり肩をつかまれて、口をふさがれていた。

そして、すぐに離れた。

状況に頭がついていかない。
えっと、ヒロが口が寂しいと言って、わたしがパシリに行ってこないといけないのかと思って、顔が近くて、キスさせろと言われて・・・。
ぐるぐるぐるぐると思考が混ざり合い、混乱する。
今、絶対に顔真っ赤だ。
わたしに口付けだであろう(見ていたから間違いないのだが)本人は涼しい顔をして、さきほどとは違った様子で空を見上げていた。
どことなく、すっきりしたといった表情を浮かべている。
それが、なんだか、無性にむかつく。
「・・・普通すきでもない女の子にキスしますかね」
「とりあえず、これで少しは持ちそうだな」
「わたしの質問は無視ですか」
彼はすっと立ち上がり、
「じゃあ、今の内に飴買いにいってくるわ」
と言ってすたすたと立ち去ってしまった。

残されたのは、わたしだ。
このどうしようもない気持ちを何処にぶつけたらいいのか。
「てか、ファーストキス奪われた・・・!」
彼氏でもない男に、しかも理由は相手の口が寂しいから。
飴かなんかがあったら、間違いなくこうなってない。
そう考えると余計に、やるせない気持ちでいっぱいになってくる。
相手にとって、不足はない(むしろ不足はわたしの方だ)けどさ・・・。
「でも、こう、ファーストキスなわけだから、もうちょっと、こう・・・」
ぶつぶつと呟いていると、ぽんと背中を叩かれた。
振り返ると、彼と同じ顔が、彼とは違う髪型でスカートを穿いて立っていた。
「やっ」
「・・・・・・」
「どーしたの?暗い顔して」
「・・・なんでもない」
「あ、もしかしてヒロになんか変なことされた?」
核心をつかれた。
「な、なんで・・・」
「さっきヒロに会ったから。さっきまでユキと居たって言ってたし。飴買いに行くから、お前もいるかって聞かれた」
いつもはそんなこと言わないのになぁ、と不思議そうな顔をする彼女。
「そ、そうなんだ」
「うーん、ユキとちゅーしたからかなぁ」
「へぇ・・・ってえええ?!なんで知ってるの?!」
すると彼女はにまーと嫌な笑みを浮かべた。
「あたりだったんだ」
「な、なな」
「ヒロが口寂しいって言ってたのは知ってるし、何も持ってないのも知ってるから。ユキと一緒に居たって言ってたし、あとユキがファーストキスがどうのこうの言ってたから」
ああああ、わたしのバカー!!
「こ、このことはどうか内密に!でないとわたしの学園生活に一気にサバイバルになるから!」
すがるような目でみると、彼女はやさしくわたしに微笑んだ。
「大丈夫だよ、言わないから」
「本当に?!」
「うん」
「ありが、」
「ただし」
と言って彼女がわたしに顔を近づける。
彼女は語尾にハートマークでもついてそうな声で、言う。

「私もキスさせて」
「え?」

本日二度目。
同じ顔で、別の性別(しかも同姓)にセカンドキスを奪われました。

「ちょうど飴きれちゃってー」
彼女はくったくのない笑顔でそう理由を述べた。
「・・・なんか、とても大切なものを2回も失った気がするんだけど」
「あはは、まぁ、いい経験したじゃん」
そういうと彼女は軽くわたしの背中を叩く。
「一日に二回も、しかも双子の両方、加えて美形からちゅーされることなんて早々ないよ」
「それは、そうだけどさ・・・」
やっぱ何か間違ってる気がする。
一日に二回も同じ理由(口が寂しい)でキス(しかもファーストとセカンド)を奪われることも早々ない気がする。
「気にしない、気にしない」
そう言った彼女の顔は今にも鼻歌を歌いだしそうなほど上機嫌で。

嬉しそうなその笑顔をみて、わたしは不覚にも「まぁ、いいか」と思ってしまったんだ。



こうして、わたしのファーストキスとセカンドキスは奪われた。

「三度目の正直っていい言葉だと思うよ、本当に」
うんうん、と勝手に納得して頷いているわたしをみて、彼は不思議そうな顔をした。
「何が?」
「や、こっちの話」
ふーん、と彼が言ったあとで、ふと思い出したかのようにわたしの方をみる。
「そういえば、今日飴きれたんだった」
「・・・・・・」
「タバコは、お前に止められてから吸ってないし、ガムもない」
「・・・・・・」
待て、この展開は見覚えがある。
「お前、なんか持ってる?」
「・・・持ってない」
普段はこういうことがないように持ち歩いていたのだが、今日に限って忘れてきてしまったわけで。
「なんでそこで目をそらすんだ」
「や、なんとなく、嫌な予感がして」
すごく嫌だが、嫌だと思うからなのか、嫌な予感というものは結構当たるもので。
「・・・・・・」
「・・・・・・」

がっしと肩をつかまれた。
「待て待て待て!ちょっと、何の前フリもなしか!!」
「してる間にお前逃げそうだし」
「今切れたのを思い出したんでしょ、買いに行ってこい!放課後だし、時間はたっぷりあるから!」
「面倒くさい」
「面倒くさいっていうなー!最近も若いものの悪い癖だ!」
そうしている間にじりじりと顔は近づいてくるわけで。

「あきらめろ」

そういって、ものすごくいい笑顔を浮かべた彼のことを、わたしは「ドSだ」と心から思った。



嫌じゃない
だからこそ、余計に複雑なんだ

彼女がまだ生きていた頃の話。

続きを書くつもりはなかったんですが、あのあといろいろと膨らんだので、形にしてみました。
さらっと百合ですね。
百合はあんまり、というか好きではないんですが、なんとなく書いてしまった。

淡々と静かな文章が書きたいんですが、回を重ねるごとに明るくなる面々。
自分が静かな人じゃないからだろうか。

(2008.2.29)

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